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今夜の番組チェック

弥生(March)

1998


●心の洗濯/
1.映画「タイタニック」を観る 2.宮本輝著「青が散る」を読む
●映画「アミスタッド」を観て


心の洗濯/映画「タイタニック」を観る/宮本輝著「青が散る」を読む

 ここ数ヵ月、心労の種だった仕事がようやく一段落した。ぬけがらのようになりながらも、とりあえずほっとして、疲れた心を癒しに街へ出た。


●心の洗濯その1/映画「タイタニック」を観て
/at 新宿スカラ座(3/16)

 いわずと知れた話題作。タイタニック号の最後を事実に基づきながら、ラブストーリーを絡めて再現した超大作です。仕事帰りに観て参りました。昨今のハリウッド映画の巨費投入作はいまいち好きではないのですが、なにぶん心が疲れていたもので、なんかこう、“どーん”という感じの映画を大きなスクリーンで観てみたかったのであります。「フル・モンティ」とどちらにしようかと思っていたのですが、スケールの大きさで「タイタニック」に軍配が上がりました。思いきり笑いたい、泣きたい。こんなふうに思うのって、相当心が疲れてる証拠なんだろうなあ。
 でも結果的にいうと、本編では一度も泣けませんでした。映画館の暗闇のなか、クライマックスではあちこちで鼻をすする音。しかしワタクシは妙に冷静に映画を観ておりました。いつもの私なら、「こんなお涙ちょうだいシーンにまんまと乗せられるなんて、くやしー」と思いながらも、涙ちょちょぎれてしまってたりするところです。もともと感激しやすいたちの性格の私なのですが、人間、心が疲れてると感情すら薄れてしまうのでしょうか。いかんです、これは早急にリハビリが必要です。
 というわけですが、かといって本編が面白くなかったわけでもありません。大きく感情を揺さぶられはしなかったものの、圧倒的な事実の再現と、人間のエゴを前にいろいろと考えさせられました。そこにレオナルド・ディカプリオことレオくんとケイト・ウィンスレットのラブストーリーが絡められてることで、悲劇性がたぶん薄まったんだと思います。しかし、このラブストーリーが折り混ぜられてなかったとしたら、話としては悲惨一辺倒で、やりきれない感が強かったことでしょう。もし自分が当時あの場にいたらどうしていただろう、なんて、映画を観ながら考えてみたりもしておりました。映画だからあれほど勇気ある行動をとれたのではありましょうが、ヒロインのケイト・ウィンスレット扮するローズは、ヒロインの枠を飛び出てヒーロー的でさえありました。いやあ、レオくん、すっかり存在を食われてしまってましたね。彼女の役柄は、観ていて爽快でした。
 対するレオくん。ワタクシ、個人的には彼はタイプではありません(タイプという点からいくと、ジョニー・デップのほうが遥かに勝っています。顔とかでなく、個性的な役柄をあえて選ぶという心意気が好きなのです)。しかしながら、映画で彼を観ると、妙に魅力的なのであります。「マイ・ルーム」、「ギルバード・グレイプ」、「ロミオとジュリエット」しかり。これって不思議です。存在感のある役者、っていうことなんでしょうね。そういえば「ギルバード・グレイプ」を観たとき、知的障害のある弟役がレオくんであるということは全然知らなかったのですが、あの演技は妙に印象に残っておりました。
 ところで、最後のシーン、出演者総ラインナップの回想シーンは、ちょっと蛇足だとワタクシは思うのですがいかがなものでしょう。あまりにもお約束的で、あれでかなり冷めてしまいます。あのシーンなしで終えたほうがよかったのではないかというのが個人的な感想です。
 個人的なお気に入りシーンは、タイタニック号の船首でローズが空を飛ぶように立っているのをレオくんが支えているところでした。自分もあんなふうに飛ぶ気持ちを味わってみたいなあ、と感じたひとときでした。とても気持ちよさそうだものね。
 観終わって、ありきたりだし比較するのも失礼なんですが、「こんな事件に遭遇してしまった人達の事実の前では、私の落ち込みなんて大したことじゃない」と感じたのでありました。


●心の洗濯その2/宮本輝著「青が散る」を読んで/(3/18)

 宮本輝氏の小説は、涙腺を刺激する。それでいて、読後には爽やかな気持ちになれる。「蛍川」「錦繍」「優駿」、どれも外では読めないくらい涙腺ゆるみまくりだった。いつも感心するのだが、登場人物が魅力的。つくりものっぽくない、生身の人間の感情が行間から感じられる。読みながらいつもいろんなシーンの映像がくっきりと私の頭のなかに描かれる。そんな小説って私にとってそれほど多くはありません。好きな作家のお一人です。
 そこで「青が散る」。もう15年以上前に書かれた小説なので、今さらっていう気もするんですが。読んだきっかけは、山田詠美氏が「宮本輝さんの“青が散る”とかね、大好き」と、本の対談で語っていたので関心を持ったわけです。
 まずストーリーをざっというと「神戸の新設大学に入学した主人公が、友人たちとともに様々な出来事にめぐりあいながら、テニスに明け暮れる4年間」。これだけではたぶんどこが感動的なのか皆目分からないことと思います。いつもながら無責任な発言ですが、知りたければお読みください。けっこう長いですが、長さを感じさせないスピード感でもって読むことができるはずです。テニスに詳しくない私も、試合のシーンなんかもう「エースを狙え!」を読むような感じでワクワクしながら読んでしまいましたよ。
 主人公の周りを固める友人たちも、いろいろなキャラクターがいるのですが、いなさそうで実はけっこう実際にいそうな人物揃いで。自分のことより人のことにかまってしまうたちの主人公、遼平。その遼平をテニス部に引っぱり込んだ、金子。天才的なテニスの腕をもちながら鬱病で一時期テニス生活を断念した安斎。姑息な印象で疎まれるが次第に彼等と打ち解けていく男、貝谷。そして彼等の憧れの女性として、お嬢様然として気丈な夏子、おっとりとした祐子。彼等がそれぞれ、悲喜こもごもの出来事と巡り会いながらそれぞれの4年間を過ごしていく様が、淡々と、でも力強く描かれております。脇役はほかにも、先輩の不動産事業を手伝い始める応援団員とか、フォークシンガーとしての道を歩んでいく奴とか、いろいろいるわけですが、彼等は友人の助けを得ながら、自らの力で乗り越えてゆきます。
 そういえば、作中のフォークシンガーのガリバーの作詞、「人間の駱駝(らくだ)」がなんとも味があって好きでした。ちょっと引用させていただきます。以下、《(C)宮本輝》

摩天楼の陽炎にひたって
人間の駱駝が生きていく
汗も脂も使うべき時を失い
瘤は栖を離れて心にもぐり込んだ
原色の雑踏にまみれて
駱駝はあてどなく地下に還る 
生きていたいだけの人間の駱駝

大都会の静寂に呑まれて
人間の駱駝が生きていく
群れをなしているのにひとりぼっちで
言葉は心を離れて友を傷つける
原色の遺跡を背にして
駱駝はあてどなく街をめぐる
生きていたいだけの人間の駱駝

 作中の彼等はただ生きていたいだけの駱駝としてではなく、人間としてそれぞれの人生に向け歩き出す……というわけです。宮本氏の小説の中では、涙腺刺激度数低めでありましたが、快く感動できる一編です。
 「人生」や「青春」、という言葉が死後になって久しい昨今。しかし、これから青春の人も、青春のまっただなかの人も、青春は過ぎてしまったと感じている人も、一度はお読みになることをおすすめします。


映画「アミスタッド」を観て(3/25)

 ちょっとスクリーンが小さいのが難点ですが、近所の映画館は水曜日に料金が1000円になるので、アミスタッドを観てきました。 
 観終わって、ちょっとがっかりです。事実の忠実な再現、ということにこだわるあまり、スピルバークは映画というものの在り方をおざなりにしてしまったのでは、という気がしてしまいました。だって、事実だけを知りたいならドキュメンタリーフィルムを観ればいいんですものね。それが過去の事実の場合は、単なる再現フィルムというわけでしょう。辛口ではありますが、本編はその再現フィルムみたいであったと私には感じられました。もちろんストーリー性はあるんですが、なんていうか、「こういうことがあったんだ」で終わってしまって、現在の私たちのいる場所に着地しないというか。確かにリアルなのでしょう。奴隷船で黒人をつないでいた鎖なども当時のものにこだわったというほどだと本で読んだ覚えがあります。でも私的にはいまひとつという感じは否めませんでした。過去に黒人が受けてきた悲惨さの原点を知らしめる、という意味ではこういうのもありなんでしょう。でも実際はその後も人種差別は続いていくわけですし。なんだか、消化不良な感じです。悪い映画ではないと思うんですけどね。個人的には可もなく不可もなく、という映画。

 しかし私の後ろの席にいた「つぶやきおばちゃん」は困りものでした。最初のあたりから「おーこわ」とかなんかつぶやいてるなー、と気になってしょうがありません。そのうち字幕を小声で読んだりしてるから、目の不自由な連れでもいて読んであげてるのかな……とも思ったのですが、どうもそうではなかったようで。「よかったね」「ああかわいそー」とかおっしゃらず、自分の胸にしまっておいて観ていただきたいものです。
 そういえば昔、私と一緒に映画を観に行った友人がよく喋る子で、ことあるごとに上映中私に話しかけてきて映画に集中できず閉口したことがあります。とうとう前の席の男性に「うるさいよ!」と叱られてしまいました。映画館では上映中のおしゃべりには気を付けましょう。


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