●8日/宮沢章夫氏演出・「会議」を観に行く/演劇
いとうせいこう氏もかつて参加していたユニット「ラジカル・ガジベリビンバ・システム」がらみということで関心を持ち、ここのところ宮沢章夫氏のホームページをよく読んでおりました。そこに宮沢氏の演出による芝居『会議』の稽古の経過を記している日記ページがあり、読んでるうちに「観に行ってみようかなあ」という気になりました。
実をいうと私、これまで芝居というものを沢山は観ていません。友人の兄が出演していて義理で観に行ったり友人に誘われて行ったりで、10数回ぐらいでしょうか。小劇団をはじめ、チケットが1万円もするいわゆる大作までいくつか観たのですが、感性にぐっとくるものには出会えなかったので、あまりのめり込まなかったのでしょう。なかには自分ですごく観に行きたいと思って行ったのに、観たらがっかりというものも(それが1万円!)。だから、もしかして私は芝居に向かない体質かも、なんて思ってここしばらくご無沙汰してたのです。特に、芝居の役者さんて、台詞まわしや演技が必要以上に大袈裟でありがちで、そのへんがどうも性に合わなかったみたいです。
しかし。宮沢氏の「稽古日記」を読んでみると、“あざとい芝居を排除していく”演出だというのです。その演出の経過が書かれた日記を読むうち、私は久し振りに芝居を観に行こうかなあ、という気になったのでした。あざとくない芝居とはどんなものか。
別役実フェスティバルは、別役氏のいくつかの戯曲をそれぞれ異なる演出家により味付けし、上演するという企画。『会議』には、ちょっと前にK-Nightでお見かけした、きたろう氏もご出演です。
会場である青山円形劇場は実は初めて入ったのですが、私はこの会場がけっこう好きです。これまで対面の舞台しか経験がなかったけれど、舞台といっても客席と同じくらいの位置でスペースもさほど大きくないので、座席が後方でも、役者たちの演技がすぐ目の前で繰り広げられます。舞台が円形ということで、役者も円を描いて歩きながら演技したりする。人によっては、「役者の表情が見えない位置があるから嫌い」という意見もあるかもしれませんが、私にとっては逆にそれが魅力でした。ある役者のある表情が、見えないこともある。それが刺激となって、舞台に引き付けられたような気がします。それは円形劇場という入れ物のためであったかもしれないし、さらにいえば戯曲や演出、役者の芝居のためであったかもしれない。たぶんそれら全部だったのかな、という気がするのです。とにかく私は、これまでかつてないほど素直に芝居の世界に入り込んで行けたのでした。
●セクシーなサボテン
(言い訳:いとうせいこう氏のホームページエッセイにもサボテンのことがup dateされていたが、決してそれに影響されたわけではありません。いや、本当のところを言うと少しされてるかも。)
わが家には、セクシーなサボテンがある。どこがセクシーなんだ、というと、そのスタイルである。
直径2センチ、体長およそ10センチの現在の姿に成長するまで約3年。ぷっくりとした頭から下が少しくびれていて、まるでそれが頭部のような印象を受ける。下半身に視線をやると、頭から5センチほど下で、これまたキュッとウェストがくびれている。古いたとえだが、名作映画「風と共に去りぬ」で、ビビアン・リーがコルセットで胴をしめあげられるシーンを彷彿させる姿だ。女性がくびれたウェストを誇示するには並々ならぬ苦悩が隠れていることをあの映画は示してくれたが、わが家のサボテンも違った意味での苦悩を抱えていた。要は、私が過去にサボテンの世話を怠った時期があったために、そのセクシーな肢体が存在するのだ。
私はかつて、別のサボテンの育成に失敗した。世話に手間のかからないサボテンを枯らせるなんて、言語道断だ。しかし私はその後、ほとぼりが冷め罪の意識も薄れた頃、次なるサボテンの育成を始める。2センチほどのミニサイズのキュウリのようなやつ。そして隣には、これまた小さいウニのようなコロコロしたサボテン。
私は彼女たちに少しずつ水を与え、日々が過ぎた。何しろ前回育てそこなったウチワサボテンは、水をやりすぎて根腐れさせてしまったのだ。今度はやりすぎないようにと、慎重だった。そして。水やりを控えめにすることに心を砕きすぎて、一体いつ水をやったのか曖昧になり、いつしか私は水やりをすっかり忘れてしまっていた。
ある日気が付くと、キュウリのようなサボテンの根元近くが、細りはじめていた。しかも色が黄色っぽくなってきている。まずい。忘れっぱなしだった水やりを、私はまた再開した。あきらめかけていた頃、彼女は持ち直した。一方、ウニのようなサボテンはやや上部分が縮小していたが、相変わらずコロコロと元気だった。それが2年ほど前のこと。
そして97年夏。2度の植え換えを経て、サボテンはかなり大きく育ってきていた。キュウリサボテンはおよそ15センチに成長した。なのに、私は今年また過ちを繰り返してしまった。ここ数年の夏は異常に暑い。私の部屋も昼間はメキシコ並みに暑くなる。「ま、サボテンは暑いのが好きなんだろうから……」と窓際に置きっぱなしにして、数日間、窓際の様子を見ない日々が続いた。気が付くとまたもやサボテンはやせ細ってしまっていた。今度は上から約3センチあたりのところが、くびれてしまったのだ。そうなるとまるでその姿は人間のように見えた。形のよい頭を支える首、そしてバスト、くびれたウェスト、張り出すヒップ。
それ以来、水をたっぷり与え、日当りのいい屋外で気をつけて育てたので、先端部分(頭部に見えるところ)はやけに緑が濃くなり、肌の張りがよくピチピチとして元気そうだ。トゲは多少あるけど、はちきれそうな肌。みなぎる健康美。セクシーダイナマイト。彼女こそ私の鉢植えのなかでの、グラビアクィーンかもしれない。
しかし、彼女のくびれたウェストに目をやるたび、かつての世話不足の罪の意識から、見えないトゲが胸の奥をつつくのだった。