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水無月(June)

2000


不器用な、かっこよさ/映画『インサイダー』を観て

(●バースデーメーク)←ちょっと浮わつきぎみの文章

●映画に見るブラジルの現実/試写で映画『オルフェ』を観て


不器用な、かっこよさ/映画『インサイダー』を観て
(6/1 新宿武蔵野館)

 いやあ、やっぱりかっこいいなあ、この映画のアル・パチーノ。えっ、もう60歳なの!? ひょえー、素敵すぎまっせ……。
 登場人物や会社名はすべて実名というこの映画『インサイダー』の主人公であるCBSのプロデューサー、バーグマンを、アル・パチーノが演じる。バーグマン本人は「私はあんなにかっこよくはないが、ガラの悪さはよく似ている」と言っていたという。某映画評にも、「この映画の唯一の欠点は、アル・パチーノがかっこよすぎることだ」とあったなあ。容姿を割り引いても、確かにアル・パチーノの役柄はかっこよすぎた。それでも嫌みにならないのは、ストーリーが実話であるということと、企業の圧力のもとでもがきながらも真実を伝えるのがジャーナリストの使命、と息巻く“背筋の伸びた役”だから。

 報道が、たとえばテレビが、真実ばかりを映すものではないことを、私たちはすでに知りすぎている。そうやって“真実に見せ掛けた虚構”“作り手に都合よく作られた嘘”を見慣れているうち、大概のことには驚かなくなっていってしまう。

 ジャーナリストでなくとも、大人になって社会でもまれていくとだんだん、“正直者はばかをみる”目にあったり、筋の通らない話を受け入れざるを得ないことがあったりするだろう。そして、屈せざるを得ないことも多い。アル・パチーノ演じるバーグマンの、“不器用な”粘り強さと誠実さは、現実社会でビジネスをする者にとってなかなか真似できるものではないだろう。真実を追究しつつ、情報提供者には誠実であろうとし続ける彼。私はだんぜん支持!! 単にかっこつけてるだけの役柄とは異なるんだよね。私が胸のすくような思いをしたように、気分がスカッとするサラリーマンは多いことだろう。そういえば、私が観た平日午後の上映回には、ひとりで来ているサラリーマンらしき男の人がけっこういたなあ。彼らも、現実の何かを“告発”したい人たちだったりして。

 一方で、ラッセル・クロウが演じる追い込まれていくインサイダー、ワイガンド役は、けっこう情けなく、見てくれはサエない。役作りのために20キロ増えたという体型、50代に見せるためのカツラ、ハンサムとはいえない顔つきも。しかし、「かっこ悪いはずなのに、かっこいいなあ、こいつも」と思わせるところがあるのだ。彼の役柄の“誠実すぎるがゆえの不器用さ”が、アル・パチーノのバーグマンと通じるものがあるからだろう。自分の信念と誇りを守ったがゆえに、仕事や家庭、多くのものを失っていく不器用な男が、怒り、諦め、怯え、迷い、決意を固めかけてまた迷う……。そんな感情の揺れを、自然にリアルに演じ分けている。

 要となるシーンの随所でスローモーションと重厚な音楽が「これでもか!」とまでに使われるのは、「マイケル・マン監督〜、ちょっとやり過ぎですよ」ってな気もするけれど。アクションがなくて男をこれだけ魅力的に描いた映画、アカデミー賞取ってよかったのにね。やっぱり巷でいわれてるように、やり玉にあげられていたタバコ会社の圧力があったんでしょうか。

※この映画見終わったあとに、ロビーでタバコ吸ってる人、けっこういた。スモーカーは懲りませんね。


バースデーメーク(6/2)

 去年はさんざんな誕生日だった(徹夜で仕事、事務所泊まり込み)。だから「今年は仕事より誕生日優先!」と鼻息を荒くしていた私であった。よって、仕事は去年より大幅にセーブ。今年の誕生日には絶対仕事をしない! と決めた。

 時間にゆとりがあると、おしゃれをしようかという気にもなる。夜に会う約束をしていたのは、ここ10年ほどお互いに誕生日を祝いあっている女友だちなのだが。会った日に好きなものをリクエストしてプレゼントとしてもらっている。ここ数年の私のリクエストの多くは、CDや本。そんな物が毎年増えていって、なんだか恋人同士みたいだよねえ。おっと、これまで何度も書いてるけれど、ワタクシ本当にレズじゃーありませんってば。でも、「またひとつ年を取る」誕生日も、忘れないでいてくれる人がいると嬉しいものなのである。

 ということで、たまにしか着ないノースリーブのワンピースなど着て出かける。そして、雑誌で見てめぼしを付けておいたメイクアップの店に行こうと考えた。私はあんまり化粧が得意なほうではないし、コンタクトをしているから普段アイメークはあんまりしていなかった。でも! プロにメイクしてもらったら、「いつもとはちょっと変わるんじゃ〜ないかな〜」という気がして、やってもらいたかったのだ。表参道にあるそのお店は、料金がリーズナブルな点で、私の興味を大いにひいていた(15分2000円)。微弱電気を使ったフェイスマッサージも別途あるらしい。これもやってもらいたいな〜、と、ちょっとウキウキ。私としてはめったにすることじゃーないし。予約が必要とのことだったので、電話をしてみる。すると、げげ、平日の昼間なのにけっこう混んでいるようだ。マッサージは予約が埋まっていた。でも15時にメイクだけならできるとのことで、すぐさま駆けつける。

 いざ店に着いてみると、マッサージのキャンセルが出たということで、そちらもできることになった。ここのマッサージは、指をくるくる顔の上ですべらせるのではなく、手のひらで固定して一定時間軽く圧迫するやり方。ほっぺの肉を手のひらでしばし持ち上げられていると、なんか整体でもやってるような感じがする。

 さてお次はいよいよメーク。担当のお姉さんに「どんなふうにしましょうか?」と聞かれ、「今井美樹ふうに」「深津絵里ちゃんみたいに……」なんて言ってみたかったが、ちょっとずうずうしいのでやめた。「今日の服や靴に合わせた色づかいがいいかな」ということで、薄いパープルの靴(めったにはかない)に合わせたメークをお願いする。いやあしかし、15分ってけっこう長いのね。そのうちのほとんどは、ベースメークにかけていた時間だと思う。でも厚塗りってふうでもなく、自然な感じ。へえー。アイラインとマスカラなんて、こんなきっちりやったことないっていうの。しかしこれも、それほど「してます」って感じではないような。ふーん。いろいろと担当者に質問をしながら、今度は自分でもできるようにと記憶する私であった。

 週末の夕方ということもあって特に混んでいたのかと思ったが、聞くところによると、予約が取れないと会社を早退してくる人もいるとか。おいおい。まー、気合いの入ったデートのときにはよろしいんじゃないでしょうか。って、私は女友達と会うのに気合い入れちゃったけど。たまにはそういうのもありでしょう。

 てなわけで、おいしいアジア料理なんかも食べ、満足満足のバースデーでありましたとさ。
(6/16up dated)


●映画に見るブラジルの現実/試写で映画『オルフェ』を観て

 ブラジルと聞いて“サンバ、ボサノヴァ、リオのカーニバル、シュラスコ、コーヒー園、ナイアガラの滝”ぐらいしか思い浮かばないようでは、現代日本をよく知らない外国人が日本を“フジヤマ、ゲイシャ、サムライ、テンプラ”の国としかイメージできないのと同じようなものだ。しかし私はブラジルには行ったことがないので、ブラジルについて真っ先にイメージするのはやはり恥ずかしながら冒頭のようなことである。あとはブラジルに行った友人から見せてもらった写真や話とか、本やテレビから伝わる情報でしかその国を知らない。でもこの映画を観て、ブラジルの現在の姿が少しだけわかったように思う。

 この『オルフェ』は、本国ブラジルで大ヒットしたそうだ。それはブラジル人がこの映画を娯楽作として支持したと同時に、現代のブラジルに暮らす人たちが感情移入できる舞台背景であったということだろう。

 もともとの原作は、ギリシャ神話に題材を得た戯曲で、さらにそれを映画化したのが1959年の『黒いオルフェ』(私はこの映画観ていないんだけど)。『オルフェ』の原作も前述の戯曲。でも現代に舞台を移したこの映画は、ディカプリオ主演の『ロミオ&ジュリエット』のように“古典の新しい表現”と言えるのだろう。

 リオのゲットー、カリオカの丘で生まれ育った主人公のオルフェは、成功したミュージシャンという設定。このオルフェを演じるトニ・ガヒードは、現実でもブラジルのカリスマ的レゲエミュージシャンだという。主人公に思い入れのなかった私には、彼がヒロインに恋する過程がどうも安易だなーという気がしたし、最初はどうしても彼が“にやけた軽いお兄ちゃん”にしか見えなかったが、ストーリーが彼に徐々に試練を課していくうちに、だんだん格好良く見えてきてしまったのだった。恋する女性を想って月夜に歌うボサノヴァ『君がすべて』などには、ちょっとばかりうっとりと耳を傾けてしまった(まあ、曲がよかったからだけど)。映画のハイライトシーンとなるカーニバルのパレードで流れるサンバにはラップが折り込まれていて、新しいブラジル音楽の姿もかいま見せてくれる。原色に溢れるパレードとゴキゲンな音楽は、この映画の見どころのひとつだろう。と、まあ、ラテン音楽好きには嬉しい要素がテンコ盛りで、サントラも聴き逃せない、要チェック映画である。

 また、映画を観ているときはここで描かれているブラジル社会の姿が現実のものにどれほど近いのかわからなかったが、あとで読んだパンフのトニ・ガヒードの言葉を借りると、「ブラジルの現状が文化的に社会的に経済的に、直接的な形で忠実に表されている」という。街頭ラジオからはラップが流れる一方で、年寄りたちが伝統音楽を奏でる。つつましく暮らす家族が、麻薬の売買で利益を得る若者が共存する。陽気なだけでなく、貧しいだけでない、ブラジル人の生き方が映し出されている。私としては、オルフェとユリディスの悲恋よりも、多くの脇役によって彩られた現代のブラジルの姿とそこに潜む問題、人々の選択する(あるいはせざるを得ない)生き方のほうにより惹き付けられた。
 だけどやっぱり最後の救いは音楽だ。やはりこの映画の主役は、音楽なんだろう。
(6/29 Up dated)

※というわけで、この夏公開の『オルフェ』。果たして公開後の評判やいかに。そういえば、ブラジルにいるはずの遠縁とコンタクト取ろう取ろうと思いつつ、日々は過ぎ……。一度は会いに行きたいけれど、遠いよね、ブラジル。


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