2000
その週は仕事の予定がびっちりだったので息抜きがしたく、インターネット知りあいのTSさんから声をかけられた講演会への誘いにはすぐ乗った。宮沢章夫さんがこのたび『サーチエンジン・システムクラッシュ』(文藝春秋刊)という小説を出版され、そのサイン会をかねた講演会であった。正直いうとサインはどうでもいいと思ったが、宮沢さんの話を聞いてみたかった。
場所は青山ブックセンター本店とのこと。しばらく来ないうちにきれいになった地下鉄外苑前で降り、記憶を頼りに本屋を目指す。ところが、しまった。たどり着いたのは青山リブロであった。それから、ほんとうの青山ブックセンターを目指して、青山通りを歩いた。ひたすら歩いた。久しぶりに急ぎ足でたくさん歩いたので汗までかいてしまった。息をきらしてブックセンター到着。TSさんも少し前に来ていた。先月のスライドショーでお会いして以来。でもなんだか話がはずむのだった。来ている人たちを見渡すと、宮沢さんの芝居に出演している役者さんもいたりして、なんだかちょっとおかしい。
やがて長髪の宮沢さんがスーツ姿で現れる。TSさんいわく、「金八先生みたい」。ちょっと失礼だが、確かに。
「話してることをいちいち書くのもなんだけど」と言いつつ、ホワイトボードに宮沢さんは書きながら話す。主な話は『コンピューターで書くということ』。むろん宮沢さんのこと、話はあちこち横道にそれるのだが、聞いてよかったなと思えることがひとつ。小説にしても、ホームページで展開していた『コンピューターで書くということ』のコーナーも、宮沢さんは、書くことが楽しくてたまらなかったという。特に『コンピューターで書くということ』は、原稿用紙でいうとトータルで700枚は超えたらしい。毎日少しずつだが、書くことを義務にするのでなく、書きたくて書く。寝食も忘れていたそうだ、その頃は。そういうばか力というか、書くことが好きだからやるという根本的な力というか、うらやましいと思ったのだった。楽しいから書く。そういう気持ちは、ジャンルは違っても、なにかをするとき力になる。子どものときは、そういうものがいっぱいあった。楽しいから走る。楽しいから遊ぶ。楽しいから作文を書く。楽しいからごろごろ転がる。思えばどれも身体的だ。大人はだんだん身体的でなくなっていって、楽しい気持ちが薄れていくのかな。
※そうこうしてるまに出かける時間になってしまった……。続きはまたのちほど。
(3/13編)
****************************************
さて、間を空けてしまったが、前回の続き。
また、もうひとつ印象に残ったのが、まわり道の話。例にあげたのは、宮沢さんが軽井沢で行なった演劇セミナーで、受講生たちに街で見つけてきたものを題材にさせたときのこと。ひとつのグループは、みんなで地図を広げて行き先を相談し、それを目指して出かけていった。もうひとつのグループは、なんにも決めずに出かけていったらしい。後者は、軽井沢銀座で“よく振るとおいしい牛乳”というのを振っている人たちを見つけた。自分たちも夢中で振ってみたとか。宮沢さんとしては、その“よく振るとおいしい牛乳”を題材に表現をした彼らのほうが面白かったとのこと。寄り道、回り道をしてきた人たちのほうが、決めたことしか目に入らない人たちよりも面白いものを見つけるのではないかということだ。
これは宮沢さんの脚本にもよく表れている面だと思う。舞台の上の役者たちに、徹底して回り道をさせる。確かに物語は結末に向かって進んでいるのだけれど、台詞のひとつひとつや役者の動きは、それとはあまり関係ない。結末という中心点に向かって、でたらめで不規則な円を描きながら、それでも中心へ向かっていくような感じといおうか。決して直線的ではない。
もしかすると宮沢さんが言わんとすることとはちょっと違うのかもしれないが、私はその話を聞きながら、バイクでの旅のことを考えていた。旅先のことで覚えていることは、観光地のこと以上に、走っている途中のことが多かったかもしれない、ということだ。走りながら見つけた変な看板、前を走る車の後部座席に乗った子どもたちと走りながらしたジャンケン、数メートル先もよく見えず死ぬかと思った霧の山道。バイクに乗らなくなってから4年ぐらい経ってしまったが、それより何年も前の、そんなことの数々をよく覚えている。最近バイクに乗らなくなって、そんな目線から遠ざかっていたかなと思った。
講演後、サイン会があった。最初はサインはいいかな……と思っていたのだが、せっかくだから書いていただくことにした。整理券に自分の名前を書いて、TSさんと並ぶ。差しだした整理券を見ながらサインをしている宮沢さんに、何か言おうと考えたのだが、適当な言葉が浮かばない。とっさに、「ときどきインターネットでメールをお送りしていた●●ですが」と言ってしまった。宮沢さんは、「そういえば見たことあるような名前だと思った」と言っていたが、嘘をつくような人ではないから本当なのかな。しかし名乗りっぱなしで、話を何もつなげず終わってしまった、とんまな私。向こうも困ったろう。だからどうした、と言いたかったかもしれない。
ともあれその日、宮沢さんの話を聞いて少し元気をもらったのだった。
あとで、『サーチエンジン・システムクラッシュ』を読んだ。やはり宮沢さんの芝居と同じような感じがした。ぐるぐる同じところを周りながら、終息とも言えない終わりへ向かっていく感覚。導かれつつ、捜しつつ、結局は放り出され、現実に立ち返る。うーん、うまく言えないな。でも、小説の舞台の池袋は私にとってなじみ深い街でもあったので、通りや何やの描写は興味深かった。デスコミュニケーションの世界で、つながろうとする意志のようなものを見せつつ池袋という街を歩き続ける主人公とともに、歩いた感じ。この小説はリアルではないけれど、身体的な感じがする。きっと宮沢さんは、実際に池袋の街を歩いて感じたことをこの小説に書いたのだろう。
身体的であること。自分がしていることを楽しいと思えること。途中の風景や出来事を目に留めること。そうしたことから、いろんなことが始まるように思える。ここのところ仕事で部屋にこもりがちだったけれど、私も街を歩こう。ぶらぶらと。
(3/15Up dated)
ティム・バートン監督いわく、この映画は「ロマンチック・ゴシック・ホラー」なのだそうだ。何じゃそりゃ、と思ったが、観てみて納得した。恐い映画が苦手で、進んでホラーなど見に行くこともない私に、ひとりで、しかも最終上映のレイトショーで観ようと思わせたのはその一言にあった。むろん、ジョニー・デップが主演ということもあったが。彼の出演作選びのティストと、個性的な演技には惹かれるものがある。そのジョニー・デップとティム・バートン監督の取り合わせなら、面白いに違いないと感じたのだった。『シザー・ハンズ』には泣かされたしなあぁ。
その期待に見事に応えてくれましたね。ホラー度は私のような初心者でも耐えれるレベルだけど、映像として芸術的。現代物のドンパチアクションよりも、映像やストーリーなどは数段楽しめましたね、私は。現代物と同様のアクションやSFXは要素としてあるのだけれど、何が違うのだろう? うーん、たぶん、役者達の微妙な演技や表情、ひとつひとつのカットなどが、リアリティよりもファンタジックな面を訴求していることにあるんだろうなあ。
可憐でミステリアスな役どころのクリスティーナ・リッチも、この映画全体に華を添えています。しかし、『アダムス・ファミリー』のウェンズディ役の面影はみじんもないよねぇ。女って魔物、っていうのを地でいく感じ。脇役たちも、味のある名優揃いでなかなか楽しませてくれる。すぐ気絶しちゃうジョニー・デップのお茶目な役どころも、コミカルな雰囲気をプラス。でも、やるときゃーやる男らしい闘いぶりも見せてくれるし。
すべて作り事と知っているうえで楽しめる。目覚めている時間の夢のようなもの。ファニーでエキセントリックで芸術的な、愛すべき映画ですね。(3/15Up dated)
先月、この“すれすれ草”でサンタナのことを書いた。その後、テレビで『スムーズ』のミュージッククリップを見て、ふと気になったことがあった。歌っているカットは、カルロス・サンタナではないのだ。ん!? もしや、ボーカルは違う人だったのか!? 気になって確かめに行きました、CD買いに行って。そしたらやはり、違ったんですねえ、お恥ずかしい。家にこもっていると情報にうとい。そういや、声とか歌い方とか、ちょっと違うと思ったんだよなあ(言い訳)。
というわけで、遅まきながら、グラミー賞受賞アルバム『スーパーナチュラル』を聴いた。個人的には、耳に馴染んでいるせいか、ボーカルとギターのからみがなんともエロティックな『スムーズ』がやはり印象的。しかし、豪華なゲスト盛りだくさんのアルバムのなかでひときわ好みだったのが、ボーカルなしギターのみの『EL FAROL』。かつて私を泣かせたギター、『EUROPA』にどことなく似ているが、それよりももっと穏やかな感じの曲調。聴いていると、なんだか落ち着ける。それと、民族音楽的な『MIGRA』。
それにしても、多数のボーカリストと組んでいながら、サンタナのギターはどのボーカルとも違和感がない。それでいて、どの音もサンタナらしい。
“Natural”には、“自然の”というほか、“生まれつきの、持ち前の”という意味があるそうだ。『スーパーナチュラル』のアルバム名は、後者の“Natural”の雰囲気がある。参加者たちの持ち前の要素をそのままに、ぶつけあったもの。音楽のジャンルや、ボーカリストの国籍、時代差などを超えちゃった、“スーパー”なアルバムだと思うのだ。話題性でこのアルバムを買った人でも、もしサンタナを気に入ったなら、ぜひ4thアルバム『キャラバン・サライ』も聴いてもらいたいな。当然だけど、『スーパーナチュラル』とはまた別のサンタナが堪能できまっせ。(3/15Up dated)