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カメライダーのひとりごと


光のない道で/闇夜のライトと雨と、ライダーズ・ハイ
@90 spring

 静岡〜京都〜伊勢志摩へとGB250で旅に出た。
 北海道の「タンク&写真事件」に次ぐパニック事件はその途上で起きた。なぜ長期ツーリングに出るたびにそういう目に合うのか……。今でこそ笑えるけど、そのときはほんと、命懸け。真剣に。

 何年も前にそのときのことを書いたことがあったのだが、どこへしまい込んだかすっかりわからなくなっていた。本棚を探していたらひょっこり出てきたのでさっそく直しながら入力してUpしてみた。外は雨。あの事件の日も、雨の日だった。そして、季節的にも今ごろだった。ゴールデンウィーク間近の春。箱根の道にはまだ雪が積もっていた。あれからずいぶん月日は流れた。気付けばもう10年近い。(4/19/99up deted)


●光のない道で/闇夜のライトと雨と、ライダーズ・ハイ

 光を失ってから、暗闇の果てしない深さに気付くことがある。

 あの夜がそうだった。私はひとり愛車のGBを走らせていた。4月末というのに箱根の山道には雪が積もっていて、身震いする寒さだ。箱根を越えたあたりから雨が降り始めてきた。その日は浜名湖のユースホステルまで行くつもりだった。しかし時はすでに夕刻、しかも箱根以降の国道1号線を走るのは初めて。あたりは次第に山深くなってきて、日も暮れ暗くなってきた。1本道を走ってきたはずなので道は間違いないとは思うものの、不安になる。そこで路肩にバイクを止め、ガソリンスタンドの店員さんに道を尋ねに行った。このまま真直ぐ進めばいいとのことで、ほっとして戻ってみると……。我が相棒、GBは走り疲れたのか、横になって休んでいるではないか。サイドスタンドがノーマルではなく、か弱いタイプのものだったので、これまでにもいわゆる“置きゴケ”(止めておいただけなのに倒れていること……)はよくあった。「またかい、しょうがないなあ」と助け起こしに行く。

 しかし。その容態を見てしばし呆然。な、なんとヘッドライトがこっぱ微塵に砕け散っているではないかあ! さらに、その中のスモールランプまでもが……。倒れたとき、道路脇の縁石ブロックのちょうど角に、ご丁寧にもぶつかったようである。さきほどまでの安堵感も束の間、一転して頭はパニック状態。何をどうしていいやら、とりあえず車体を起こす。震える指先でライトのスイッチをオンにしてみると、むき出しの電極に雨が当たり、バチバチというすさまじい音をたてる。

 まだようやく静岡にさしかかったばかりなのに、この先どうしよう……と、しばらく思いを巡らす。この先はまだまだ街路灯のない山道が続きそうだ。日はもうとっぷり暮れている。どこへ向かうにしても、暗闇のしかも雨の中、ライトなしで走るのは自殺行為に等しい。国道の脇にテントを張り、このまま朝まで過ごそうか……とも考えたが、「ええい、前進あるのみ! ユースも予約しちゃったし」と奮起する。

 先ほど道を尋ねたガソリンスタンドにバイクを押して行き、「こ、これ、なんとかなりませんか」と、かすかな希望を抱いて助けを求めに行ってみる。が、「うーん、これは無理だねえ」と当然のお答え。バイク屋じゃないから当り前。「すぐそこに自動車整備工場があったなあ……」との情報を得て、わらにもすがる思いで行ってみる。わずか数100メートル先だが、他の車との追突が怖いのでライトオンのままだったが、バチバチすごい音がしていた。
 工場の窓からは明りがもれている。まだ誰かいるに違いない。が、窓際に人影はなく、入口にはシャッターが降りている。しかし女の執念、シャッターをも通す。シャッターを叩き、「すみませーん」と叫ぶ。しばらくそれを繰り返していると、ガラガラとシャッターが開いた。中から現われた整備士さんが、天の磐戸から出てきた天照大御神のように見えた。

 訳を話し、哀れなGBを見せる。「うーん、これはどうしょうもない」と整備士さんの非情なお言葉。まあ、営業終了後に車の整備工場へいきなりバイクを持ってきて直してくれ、っていうのもかなりムチャな話なのは分かっているのだが……。「そこをなんとかなりませんか」と粘る私に根負けし、何人かのスタッフがかわるがわるやって来て「これはすごいね」と言いながらも案を考えてくれる。とりあえず粉々になったライトのガラスを外し、ひしゃげたライトのフレームを修復してくださった。問題はライトそのものだ。うーん、とみんなで腕組をして考えこんでいると、最初に出てきた整備士のおじさん、たぶん社長さんが「これが入るかもしれないね」と、スバル車の丸いヘッドライトを持ってきた。そうか! そんな手があったのか! と感動してしまう私であった。が、スバルのライトはフレームより一回り小さく、カパカパと浮いてしまった。一瞬期待した私の気持ちはむなしくしぼんだ。だが、そこは天照大御神さまの神業。整備士さん、いや社長はスバルのライトの回りに、ガムテープをぐるぐる巻きつけ始めた。けっこうな厚みになるまで巻き、フレームにあててみると! おお、なんと! 見事にすっぽり収まった。電気系統をつなぎライトオンしてみると、GBの目には再び光が戻ったのだった。

 ツナギ姿の社長、いや天照大御神さまに「一生恩にきます」と感謝する。修理費を聞くと、「500円でいいよ」とのお言葉。「それじゃ申し訳なさすぎる」、「いや、いらない部品とガムテープしか使ってないし」と押し問答の末、結局500円ポッキリしか受け取ってくれなかった。このツーリングを終えたらまた帰りにここを通ってお礼をしようと心に決め、再び雨の闇の中へと走り出した。

 あのまま朝を待つこともできたけど、叩けば開かれるドアもある。どんなに深い闇でも、たった一筋の明りでもあれば走っていける。暗い道を照らす明りの有難さをかみしめながら、まだまだ遠い浜名湖を目指し走り続けた。

 雨のバイパスをいくつも走り抜ける。走っても走ってもまだ静岡、なんて静岡は広いんだい。降りが強くなってきた雨を受け、身体は疲れきっているはずなのに、ぐんぐん調子が出てくる。ここでスリップとかしたら死ぬかもしれない、と緊張しているのに、いつもより快調なスピードが出る。いつもは苦手な追い越しもばんばんかけられる。
 雨が私とバイクをすっぽり包み、ひとつの生き物と化してしまったかのような一体感を感じていた。このままどこまでも走っていけそうな気がした。「これがライダーズハイっていうやつかな」とふと思う。ランナーが走り続けているうちに起こるような、身体の疲れ具合とはうらはらのハイな状態。箱根の冷たい雨と打って変わって静岡の雨は温かく、しかし激しく、励ますように私とオートバイに降り注いでいた。

 その夜10時近く、ようやくたどり着いた浜名湖ユースホステルで私を待っていたのは、耳の遠いおじいちゃんが作る、わらじのような巨大ハンバーグの夕食だった。風呂に入れるのが有難かった。手も足もふやけきっていた。

※このときのツーリングでは、翌日またひたすら走り京都へ。そしてそこでもまたちょっとした事件が。それから奈良と京都を数日行き来した後、紀伊半島を南下。本州最南端を極め、帰りは渥美半島へと渡るフェリーで海を越え、また帰りも雨の1号線をひたすら走って帰ってきました。そのうちまたそのへんの話をば。



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