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巻第七 平成十三年 七月
※初めての方は一番下からお読みいただくと、日付の順に見られます。
■筋肉日和(7/30)
行楽日和とかプール日和とはよく言うが、ふいに「筋肉日和」という言葉が浮かんだのであった。
ここのところあまりの暑さに、それほど泳げないのにプールに行きたくてたまらなかった。そして、室内労働が多いため衰える一方であろう自分の体を「なんとかしなくては」という気持ち。暑さが40度近くなった先週、私のその思いもピークを迎えた。ちょうど近くのスポーツクラブが体験コースを開催しているので、この際、ずうずうしく期間中数回は行ってやろうといざ乗り込んだ。
それが先週末のこと。しかしなあ、情けないほど体力は衰えていた。指導員の勧めにしたがって、最初はしばらく水中を歩く。やがて泳ぎだすが、25メートルで心臓バクバク、息はゼーハー。泳いでいる時間より休んでいる時間のほうが長いのなんの。私はクロールがあまりできないので、もっぱら平泳ぎ専門。手で大きく水をかくからか、腕や肩がだんだん重くなってくる。休んだり、歩いたり、泳いだりを繰り返していたが、いよいよ肩がぱんぱんに張ってきた。隣でやっていた子どもスクールの子どもたちは延々と力強く泳ぎ続けているのに……。受付けの時、にこにこしてやさしげだった男性コーチが、子どもたちの指導に「うりゃ! うりゃ! もっと〜しろ! はい9秒!」と、先刻とは打って変わって腹の底から声を絞りだしている様子に、体育会系男の怖さを感じつつ、あえなくその日は退散。
そして今日も泳いできた。今日は前回ほどには腕や足は疲れない。だが、休んでばかりなのと、だんだん回を追うごとに息継ぎが苦しくなってくるのは相変わらず。それでもこの間よりは一歩前進、かな。
4年ほど前にこのスポーツクラブのエアロビ会員だったのだけど、その頃はプールとの併用はできなかった。でもこの頃はできるらしい。仕事が忙しくて数ヵ月通えない日が続いたのでやめてしまっていたけれど、また入るかなー。今なら入会費無料らしいし。しかし、久しぶりにエアロビをちらっと見学して驚いたのは、数年前と内容がほとんど変わってなかったこと。メンバーには数年前からいた人の顔もあったが、飽きないのかなあ。考えてみれば水泳だって同じメニューだけどね。でもマイペースでできるぶん、今の私には水泳のほうがいいかもしれない。
座ってパソコンで指先動かしているばかりじゃなくて、体を動かすと心地いい疲れを感じられるものだ。たまにゃー体も使わなくては。私の筋肉はまだ「鍛えられる」ところまではとてもいっていないけど、少しは筋肉の存在を感じられるくらいに、ひとつやってみますかな。
(7/31up dated)
7月上旬が父の命日だったので墓参りに行くつもりだったのだが、ばたばたしていて先延ばしにしていた。このところようやく落ちついたので、行ってきた。しかし不思議なもので、身内の眠っている霊園というのは全く怖さを感じないものだ。そこに両親揃っているので、どこか「夏休みの里帰り」の気分さえ漂う。環境的にも、周囲に山が連なり、日当たりがいい丘の上なので、なんだかほっとする。この日も遠くの山を見ながら、ハイキング気分で訪れた。
ところが、この時期が夏だということをすっかり忘れていた。すっかり草ぼうぼう、なのである。やれやれ、草むしりだ。予想がついていたらスコップを持ってきたのに。辺りを見回すと、面白いことに隣りあわせた墓地でも生えている雑草の種類が微妙に異なる。うちの敷地は圧倒的に「ねこじゃらし」が優勢。他のところでは茅みたいなまっすぐな葉のもの、なんていうのかわからないが一本がやたらめったら長くなるものなどなど。
かくして、軍手代わりにコンビニのビニール袋を手にはめ、草むしりを始める。根は深くないので面白いように次々抜ける。あっという間に、ねこじゃらしの山ができてしまった。
カブトムシやセミの抜け殻などがあたりから出てきて、思わず一人で「ひえー」と驚く。もともと蛾とかは苦手だったけど、こういうのは小さい頃けっこう大丈夫だったのになあ。
夏草を抜き終わったあとの墓地は、なんとなくうら寂しく見えた。青々してころころした「ねこじゃらし」が生えていたほうが、賑やかだったようにも思えた。ふと、長野の祖父の墓へ行く途中の田んぼ路の緑を思い出す。会ったことのない祖父の墓への路。
居なくて悲しいとか淋しいとかいう時期はずいぶん前に通り越してしまったけれど、ちょっとした休みがあるときには、帰省するような気分でそこを訪れる私がいる。田舎の散歩気分で帰りはバスを使わず駅まで歩いたら、あちこち寄り道していたせいもあって1時間もかかってしまった。あまり暑い日じゃなかったのが幸い。自分より丈の高い芙蓉やひまわり、涸れそうな川を泳ぐ水鳥(鴨?アヒル?)などをぷらぷら見ながら歩いた、夏の夕方であった。
(7/31up dated)
■ゆかたの役得(7/20)
暑い暑いとぼやきながら仕事仕事の一週間。しかし、世は連休。あっしにはかかわりのねえことでございますといいつつも、少しぐらいは息抜きしたい。そこで、去年も一緒にゆかたを着て出かけたご近所友達のOと、今年もゆかたを着て出かけることに。天王洲で民族音楽ライブと花火(たった3分だったけど)があるっていうので、近所の花火大会よりもたまにはそういうところへ行こうということで。
Oの家で一緒に着付け。ふたりとも本を見ながらだけど、去年も着たので、少しは慣れてきた気がする。私は、去年新調した紺地のとんぼ柄のゆかたに、うぐいす色の兵児帯。足元は、鼻緒ずれが痛いのでサンダルで勘弁させてもらう。
Oと並んで駅まで行くと、通りすがりの親子連れの子どものほうが、「今日はおまつりだ」と親にささやく。電車の中でも、となりに座っていたおじさんが「今日はどこかで花火があるんですか」と話しかけてくるので、あれこれ世間話をする。「たまにはゆかたでも着てゆったりする心のゆとりを持たなくちゃね」とおじさん、最後にまとめてくれた。山手線でも、私たちをちらっと見て「どこで花火かな?」とつぶやきあう人達がいる。うーん、洋服のときならほとんど注目されないワタクシですが、ゆかたのときはけっこう見られるわねえ。
引き続き乗っていた山手線の、私の頭上のクーラーからときどき水滴が落ちてきていた。気付いていたのだけど、まあいいかとちょっと体をずらしてさけていた程度であまり気にしていなかった。そうしたら、前に立っていたサラリーマン風の男性が「水が落ちてきますよ」と、ゆかたが濡れないかと気遣いをみせてくれた。おやまあ。きっと洋服の私にはそんなこと声もかけないことでしょうに。
ゆかた姿の女に世間はやさしい。みなさんもぜひ着ましょう。
(7/23Up dated)
■やっぱり食はエネルギー源(7/19)
今週はなんだか仕事がばたばただった。そのうえ、仕事上ウインドウズマシンでメールを送る必要が生じ、これまで先延ばしにしていたWINのメール設定に四苦八苦するはめに。もともとマック派なので一人ではお手上げと思い、知り合いの事務所に行ったついでに、ウインドウズ派の人達をつかまえて、あれやこれや聞きながら設定。しかしうまくつながらないんだな、これが。こういう設定したのなんてもうはるか前にやったきりだし、どこか微妙なところで設定を間違えているような。教えてくれてる相手もあの手この手でいろいろとやってくれている。
やがて、ようやくアクセスポイントに接続はできた。受信もできた。となりで教えてくれている人、もう一人教えてくれた向こうの人から「えかった」「つながりましたか」とメールが届く。糸電話みたいだな、こんなに近くにいるのに。しかし今度は送信ができない。「私のメールまだ着いてない?」と隣を覗き込む。うーん、アナログ。
そのうち送信もできるようになった。疲れたぜい。気付けば昼飯抜きのまま、夕飯も食べずに22時をまわっていたではないか。食欲はなかったが、家路につくにつれてどんどん疲れて気持ち悪くもなっていく。やっぱり食べたほうがいいかと、コンビニの冷やし拉麺を深夜に食べる。そうしたら少し元気になった。
仕事疲れで食事するのも忘れそうって久々だけど、やっぱり食べないと人間、力が出ませんなあ。
(7/23Up dated)
■ゆきずりの日系フィリピン女性(7/16)
その日も暑かった。山手線の向かい側のホームでは、やけに人々が後寄りに集まっていいるなと思ったら、日差しを避けて日陰に入っているのだった。そんな様子をぼーっと見ながら乗り換えの電車を待っていると、急にうしろから誰かに背中をつつかれた。なんだ? と振り返ると、色黒の女性が「こっち千駄ケ谷行く?」と、私に尋ねてきた。ちょうど私も同じ駅に行くところだったので、「行きますよ」と答える。やがて電車が来て、さきほどの女性と私は向かい合わせの席に座った。静かな電車の中、彼女は私に話しかけ始めた。ところどころ聞き取りにくい発音だが言っていることはだいたいわかるので、相づちを打つ。彼女は埼玉の春日部から来たらしい。ここまでとても遠かった、とぼやく。発音から、中国か東南アジア系の人かなー、となんとなく考える。「千駄ケ谷はふたつめ。私もそこまで行くの」ともう一度教えてあげた。偶然下車駅が同じだったので、一緒に降りる。行く方向も途中まで一緒だったので、なんとなく並んで話しながら歩いた。 横断歩道を渡りながら彼女が言うには、「私フィリピンの2世ね。日本に親も友だちも誰もいないよ」。彼女の行き先は駅から数分のところのビルだった。「ここ。じゃあね、バイバイ」と彼女はビルに消えていった。
わずかしか話さなかったゆきずりの人だけれど、もう少し話してみたかった気もする。
(7/23Up dated)
↑朝顔市のおじさんと、おじさんから買った「るそうこう」。
↓もう一鉢買ってきた朝顔。
■早起きのもとを買いに(7/6)
入谷の朝顔市に、園芸好きのOと一緒に行く。どこかの植木市に行きたいねと相談していたとき、お互いの都合が合うのは朝顔市だけだった。咲いている状態を見るには早朝行かなければならないと気付き、ちょっと考えたが、咲いてなくても仕方ないと午後から行くことにした。でも、朝顔市へ行くのは2人とも初めてなので、楽しみにしていた。
私は数年前から毎年朝顔を育ててはいるのだが、苗で買った初年に比べると、種で育った花は年々小振りになってきていた。小さい朝顔もそれはそれで夕顔のようで、またかわいらしいものである。でも、例年にはない別の品種も欲しいなと思った。それに、夏に朝顔を育てていると、咲くのを見たり朝に水遣りをするために早起きするのが楽しくなるものだ。
入谷鬼子母神までの歩道に市が立ち、ずらりと朝顔の鉢が並び、はっぴ姿のおじさんやおばさん、娘や兄さんたちが「いいの選んであげるよ」と誘いの声をかけてくる。日除けのため屋根代わりにビニールシートが歩道上空を覆っているので(天井のように)、人いきれでむしむししている。売り子の人達は、休憩中にビールを飲んだりと、祭り気分のよう。私たちは汗をふきふき、一応はしっこまでずっと見て歩く。鬼子母神でお参りをし、朝顔の形のお守りも買う。
さて、どの朝顔を買うかであるが、一通り見たところ、どこもそれほど品種には大差ないようだった。値段も同種のものはほぼ同じ。で、行灯作りの材質が竹のほうが風情があるので、そこで買うことにした(他はほとんどプラスチック製だったのだ)。品種の写真のファイルも置いてあったので、それを見て、4種の苗がそれぞれ別の色の花を咲かせるという鉢を買う。「また来年も来てね」とおばちゃんが言う。でもねー、せっかく2000円もする鉢を買ったのだから、来年は種で育てるつもりである。たとえ花が小さくなろうとも。
駅まで戻るあいだ、重いけれどもう一種類買って帰るべきか迷った。普通の朝顔とはちょっと見かけが異なり、濃いピンクの小さな小さな花を咲かせる「るこうそう」という鉢もあり、それが欲しかったのだ。最初はそれだけ買うつもりだったのだけど……。せめて写真だけ撮っていこうかと、市のはしっこ、駅近くの路地のあたりに並ぶその鉢を撮る。Oと鉢の種類についてあれこれ話しながら見ていると、市のおじさんも説明してくれる。でも、市が密集していた通路に比べると、ここはかなり場所が外れているせいか、また、これからおじさんたちは喫茶店の出前のアイスコーヒーで休憩を取ろうとしていたからか、それほど強引ではない。でも、欲しがってる私の心理を見抜いたのか、「どう? 電車賃ぶん、まけとくよ」とおじさんが小声で囁く。そう言ってくれるのならと、買うことに。
ついでにおじさんの写真を撮らせてもらう。隣のおじさんが寄ってきて、「このおやじさん、いい顔してるでしょ。テレビとかよく出てるんだよ」と私に言う。おじさんも「ほんとだよ、嘘じゃないよ。おかげで“どこかで見た顔だ”ってお客さんがよく来てくれてね」と言っていた。確かにおじさん、いい顔つきだ。いい男っていうのじゃないんだけど、はげ頭にねじり鉢巻きが似合い、メガネの奥の笑わない目がどことなくプロっぽく感じられ、日焼けした顔がいかにも露店商(植木屋さん?)という感じ。ほおずき市にも出ているらしい。今年は仕事で行けないけど、市であのおじさんを探せばきっとまたどこかにいるんだろうな。
帰りの電車で、鬼子母神で買った、ピン留めタイプのお守りを落としたことに気付く。Oは「戻ろうか?」と言ってくれたが、私は一瞬考えたあと、「うーん、無くなっちゃったってことはそれが厄を持ってってくれたのかもしれないし、ま、いいやあ」と割り切った。数時間だけ私のもとにあったお守り。まあ、厄払いしてくれたのだと思うことにしよう。
市の人達が客に呼びかけていた、「明日が楽しみだよー」という言葉が頭に残っている。夏の毎日の朝が楽しみになる、早起きのもとをふたつ持って、家路についた。
(7/7up dated)